この記事では公務員の定年延長について紹介します。
現在の公務員の定年は60歳ですよね。2018年8月10日に人事院が国会及び内閣に対し「定年の段階的な引上げのための意見」の申出を行いました。
申出によると、公務員の定年の段階的引上げに関し、①定年の見直し、②役職定年制の導入、③60歳以上の職員の給与、④定年前の再任用短時間勤務制度の導入等の措置を講じるとしています。2019年に通常国会に国家公務員法の改正案が提出され可決される見込みです。2019年2月4日現在、国家公務員の定年延長関連法案は今国会への提出が見送られました。しかし、報道によると「今国会には出なくても、各自治体へ準備を始めるよう伝えた」とのことですから、国家公務員が延長となれば地方公務員も準拠することになるでしょう。
60歳を超える職員の能力・経験を本格的に活用するために定年を延長するということです。しかし、若手公務員の方からすると、ライフプランを考える上で定年の見直しはとても重要な問題ですよね。「住宅ローンが60歳以降も続くから延長されて助かった!」と思う人もいれば「いやいや早く引退したいのに…」と思う人もいるでしょう。
働いている人にとっては「退職金は保障されるの?」と思うこともあるでしょう。これから公務員になろうとしている人にとっては「退職者の補充の必要がなくなったら新規採用が減るのでは?」など不安にもなりますよね。
そこで、この記事では現在わかっている情報を踏まえ、定年延長が退職金や新規採用者数に与える影響を考えてみましたので紹介いたします♪
目次
定年の見直し
定年は原則65歳に
定年を”段階的に60歳から65歳に引上げ”としています。ただし、職務と責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難で定年を65歳とすることが適当でない官職は70歳を上限として定めるそうで。この例外にあたるのは相当偉い方ではないでしょうか。今でも事務次官の定年は60歳定年の例外で62歳ですし。
役職定年制の導入
役職定年制とは、原則60歳に達した管理職の人は他の官職へ任用換(降任等)を行うというものです。
役所のように年功序列の職場において、定年延長した場合、役職定年制としないと上が詰まって若手が昇任できませんよね。そうすると職員の士気にも影響しますし、組織も硬直化してしまいます。組織の新陳代謝を確保し、組織活力を維持するため、当分の間、役職定年制を導入するとのことです。ここでも、「当分の間」とあるので、必要に応じて見直すということでしょう。
また、任用換により公務に著しい支障が生ずる場合は留任もあり得るということです。指定職クラスの人が降任してきたら、周囲の職員がすごくやりづらいと思うのですが「公務に著しい支障」に当たるのでしょうか(笑)
定年前の再任用短時間勤務制の導入
「定年延長に反対、今までどおり短時間勤務がいい」って方もいるでしょう。
60歳以上の職員の希望に基づく短時間勤務も可能となります。現行では60歳で一度退職したうえで短時間勤務の職に任用されますが、定年が延長された後は、定年前短時間勤務として現行の再任用短時間職員と同様の勤務形態をとることが可能ということです。
(もちろんこの場合の給与はフルタイムの方と比べて低くなります)
給与はどうなる?現役時代の7割水準に
働いている若手公務員の方が気になるのはここじゃないでしょうか。
民間企業においては60歳を超える従業員の給与水準は60歳前の7割程度であることから、これを踏まえ公務員も当分の間、7割水準に設定されます。
一律に7割にするかは議論があります。働きぶりは人によって違います。定年前の職員と同様な働きをする人には100%を支給すべき、しかし定年前の職員の半分程度の働きしかしない人に7割も支給するのか?という意見もあります。
現行の再任用制度の場合、役所に残って再任用となる場合は大幅に給与が下がります。私はそれを見ていましたので7割と聞いたとき、あれ以外ともらえるんだなと感じました。今働いている人の中でも少しほっとした人もいるのではないでしょうか。
ただし、退職金は今までと同じ額をもらえるかというと、それは難しいでしょう。
定年延長で退職金はどうなる?
退職金は減ると考えます。
現行の退職金は、国家公務員で定年退職した場合は「退職日の給料(俸給月額)×勤続年数別支給率+調整額」ですね。平均すると2,200万円くらいもらっています。60歳で退職したとして退職時の給与4年程度の給与相当分といった具合ですね。
定年延長後も、退職金制度が維持されるとしても、算定基準の月額給料は現行の60歳から、減額後の65歳時の給料に変更となるでしょう。なぜなら、給料のピークである60歳基準の給与で退職金を支払うとすると、予算的には今の退職金の2倍近い人件費がかかってしまうからです。
すごく単純化した計算をしますが、例えば60歳時の給与が50万円として、退職金を平均である2,200万円をもらうとします。
一方、定年延長後の給与は60歳時の7割水準です。このとき、月額給与は50×0.7=35万円。60歳から5年間をこの給与水準で働くとすると35×12×5=2,100万円。退職金額と近い数字になりましたね。定年延長で新たに発生する2,100万円の給与+退職金2,200万円で60歳以降にかかる人件費は4,300万円です。
60歳定年で支払う退職金の約2倍です。これでは国民の理解を得るのは難しそうですね。定年延長するよりも人件費のかからない若者をたくさん雇った方がいいんじゃないかという意見も出るでしょう。
また、役所における財政健全化の指標として「経常収支比率」というものがあります。これは人件費等の義務的経費の割合を示したものです。100に近づくほど義務的経費が多く、裁量的に使えるお金が少ないということになります。
つまり、定年延長した上にさらに退職金も現行と同額程度を支給した場合、経常収支比率が跳ね上がり、財政状況が悪化。必要な政策を実施するための予算が減ってしまうと考えるのが自然ですよね。
このような観点からも、現在の退職金と同程度の額を維持しながら定年延長することは限りなく難しいと考えます。
しかし、働く人からしたらどうでしょう。もし定年を5年延長する代わりに退職金がゼロとなるなら、皆60歳での退職して退職金をもらうことを希望しますよね。退職金は60歳以降に働かなくてももらえたはずのお金です。60歳以降は退職金に加え、他の仕事をしながら生計を維持できたはずですよね。
それが役所で安くなった給与に縛られながら働く。。もし退職金をなくすのであれば、副業を認めるなどをしないと働く側からすると定年の延長はデメリットでしかありません。
退職金の見直しについては今後の動向を注視していきましょう。
定年延長で新規採用者は抑制される?
新規採用者数は減る方向と考えます。
定年を延長するとなれば、その年は定年退職者はいなくなりますよね。新規採用には退職で失われる戦力を補充する趣旨があります。ということは、翌年は新しく人を雇うことが難しくなる。普通に考えるとそういうこととなります。
ただ、この点は人事院も当然理解しており、定年の引上げにあたっては現行の定年を前提とした人事管理や人事計画の見直しが求められることから一定の準備期間も必要。という意見も付しています
引上げを「段階的に」行うというのもこの点を考慮しているのでしょう。各役所の年齢別人員構成、人事管理に悪影響を与え内容にという趣旨のようです。
すごく極端な話で例えると「今年から定年は65歳です!」としてしまうと、今年60歳の人が65歳となるまでの5年間は退職者ゼロ、退職者と同数を補充するはずだった新規採用者も5年間ゼロ。将来、組織の年齢構成に空白の世代が出来てしまいますよね。(定数管理はそんな単純ではありませんが)
新規採用の数は退職者数と完全に切り離して考えるわけにはいきません。人件費がかかることですから。定年延長が新規採用者数に与える影響は?と聞かれたら減ると考えるのが自然でしょう。
とはいえ、定数は政策の実行ともリンクします。人が足りなくて必要な事業が実行できず国民生活に影響を与えてしまってはいけません。政策の実行に必要であれば増え、事業が終われば減となります。政策の改廃によりこうした増減が毎年行われた結果、定数は決まるものなのです。
報道では2021年から3年ごとに1歳引上げ、2033年に65歳とする方向とのことです。具体的にいつから新規採用者が減るかを推測するのは難しいことですが、人事管理・人事計画の見直しについても今後の動向を注視しましょう。
さいごに
現在わかっている範囲の情報を踏まえ、おさらいしましょう。
- 定年は65歳(例外あり)まで段階的に延長
- 役職定年制を実施
- 給与は7割水準(例外あり)
- 短時間勤務は選択肢として残される
- 新規採用者は減方向に影響すると考えるのが自然
- ただし、申出には「新規採用者数等への影響には配慮する」旨の意見も
- 退職金は減方向に影響すると考えるのが自然
定年延長はほぼ決まりでしょう。この大きな動きのなかで若手公務員や公務員受験生ができることは何でしょうか。
制度の変更に翻弄されることなく、お金の心配をせずに働くには、あらかじめ将来のライフプランを考え、退職金に過度な期待をせず、現在またはこれからの生活を見直すことです。
現役時代の給与から一部を積立貯蓄する、個人型確定拠出年金や積立NISAといった非課税の資産運用制度を徹底的に活用するなど、自分の将来のお金は自分が責任をもって守る増やしていくといった考え方をしていく必要があるでしょう。
とはいえ、この記事での退職金や新規採用者数の影響はあくまでも個人的な推測に過ぎません。実際は数十年後に今の若手公務員や公務員受験生の方々が働きやすい環境となっていればもちろん喜ばしいことですし、そうなることを願っております♪
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

