この記事では、地方公務員の管理職になる場合、ならない場合の収入を年次別(年齢別)にご紹介します。
公務員を就職先に考えている方、若手公務員の方は将来受け取る収入をどのように確認していますか?特に管理職試験を受けようか迷っている方にとっては、正直、将来の収入は大きな判断基準になりますよね。
地方公務員給与実態調査によると、平成29年度の一般行政職の平均給与月額は402,147円(42.3歳)とのことですが、本当に知りたいのは「●歳の時点で自分がいくらもらえるのか」ってことじゃないでしょうか。元・公務員夫婦の私たちが就職する際はそういった情報はなく、平均給与からなんとなく自分の将来もらえる収入をイメージすることしかできませんでした。
その疑問を解決するために、この記事では、入庁してから退職するまでの38年分の収入を給料表にもとづき、管理職・非管理職と分けて試算しました!
なお、今回は東京都庁の給与基準をベースとしました。計算の根拠とした資料は、平成30年12月現在で東京都人事委員会HPで公表されている東京都職員給料表、昇格時号給対応表、給与メモ(平成30年4月1日現在)(PDFファイル)を参考としました。このような給与の内容がわかる資料を公表している自治体であれば、同じように試算することが可能です。
読者の皆さんの生涯設計、管理職になるかどうかの判断の参考にしていただければ幸いでございます♪
はじめに(公務員受験生・若手公務員のリアルな声)
これまで、公務員志望者や入庁年次の浅い若手公務員から以下のような声をよく聞きました。
- 管理職を目指している。最速で出世した時の年収はどれくらいか知りたい。
- 管理職にならない(orなれなかった)ときの収入が知りたい。
- 結婚しなくても生きていけるから公務員になりたいんです。扶養親族とか想定しない(諸手当を考慮しない)収入が知りたい。
- 超過勤務はしたくない(or残業のない出先に配属となった)。超過勤務手当を含めない基本的な収入が知りたい。
- 平均給与はいいから、自分が●歳のときにいくらもらえるかを知りたい。
地方公務員のモデル年収は、国が毎年行っている調査や、自治体の採用説明会で配られる人材募集のパンフレットなどを読めばだいたいわかります。しかし、平均給与は役所の規模や年齢構成などに左右されてしまいますし、パンフレットのモデル給与は管理職への昇進が前提とされがちです。また、諸手当には扶養家族が●人を想定とか、超過勤務を含んでいることも多いです。例えば「55歳 主事(ヒラ) 扶養親族0人 ●●万円」といったモデル給与はみたことがありません。
そこで、今回はできるだけこれらの声に応えるため、つぎの条件で試算しました。
試算をするにあたっての前提条件
ケース① 管理職にならない場合の前提条件
課長代理(係長級)までは昇任する想定としました。
- 大学卒業後、新卒で入庁(23歳)
- 定年は60歳
- 諸手当(扶養手当・住宅手当・通勤手当・超過勤務手当)は含めない
- 昇給幅はすべて標準(4号昇給)
- ボーナス(期末・勤勉手当)は平成30年度の支給率で計算(実際は毎年変動するもの。また、4月に採用された場合、ボーナスは期間率の関係で実際は少し少なくなります。)
- 勤勉手当の成績率は考慮しない(実際は勤務成績により多少変動あります)
- 主任試験は受ける(都庁は主任になれば課長代理までは試験なしで昇任)
- 昇任は、主事5年→主任5年→以降は定年まで課長代理
ケース② 管理職になる場合の前提条件
管理職のリアルな収入に近づけるため、ケース①の前提条件をベースとしながらも、以下の条件を加えました。
- 主任2年目に管理職試験Aに合格
- 管理職試験合格後のローテーション(課長昇任まで)期間は5年と想定
- 課長昇任後、出先課長→本庁課長→統括課長→部長への昇任についてはより実態に近づけるために「都政新報」の標準的な配置ボストと年次を参考とし、主観で想定。そのため、「職員の採用・昇任等に関する一般基準(平成30年4月)」によると5級職(部長級)への昇任は4級職(課長級)在職6年以上とあるところ、課長級在職を8年で計算
- 部長昇任時は担当部長で想定。担当部長→本庁部長への期間は参考情報がなかったため、完全なる主観です
- 部長級から局長級(指定職)への昇任、さらには副知事という出世もあり得ますが、今回の記事では部長級で退職する想定としました(試算が大変であきらめました…いつか頑張ります)
年次(年齢)別の試算結果
結果は以下のとおりです。(画像をクリックするとPDFファイルが開きますので拡大してご覧ください)
ケース① 管理職にならずに退職した場合の試算結果
23歳で入庁して60歳で退職するまでの月収・年収を試算しました。退職金を含めない生涯年収は2億5千万円強という結果になりました。
ケース② 管理職となった場合の試算結果
23歳で入庁して60歳で退職するまでの月収・年収を試算しました。この計算だと生涯年収は3億5千万円を超える結果になりました。ケース①と比べて1億円以上もの差がつきました。
本当かな…と、自分の計算を疑いましたが、東京都人事委員会のHPで紹介されている50歳部長の年収がおよそ1,291万円であるのに対し、当ブログの試算では50歳部長の年収は約1,305万円です。誤差は1%程度でしたので、致命的な計算誤りなどはないと考えています。
早く出世すればするほど生涯年収は増える計算です。
ただ、ボーナスについては出世するほど、成績率の影響が大きくなります。成績率が上位の人、下位の人で結構な差がつきます。今回の試算では成績率を無視していますので、その点ご承知おきください。
試算結果については、公表されている条件の範囲内で可能な限り正確に作成したつもりですが、実際に人事担当がシステムで算出する方法と異なる可能性があります。特に、端数計算の取扱い等でずれたり、ボーナスの成績率を無視している点で多少ずれます。この点は大目に見てくれるとうれしいです。
また、試算結果の用途については、あくまでも、ご自身が将来受け取る収入の目安を確認する程度にご利用ください。公務員の給与は安定的であるとはいえ、民間企業に準じて毎年給与の改定を行っています。特にボーナスの計算は景気に大きく左右されます。バブルの頃は年間5ヵ月を超えましたが、リーマンショックの後はしばらく4ヵ月を下回っていました。
状況によっては試算結果から大きく乖離することもありうるとご理解いただければ幸いです。
試算の方法
前職のない新規採用でⅠ類B採用の場合、初任給は1級29号です。
- 試算する自治体の給料表・昇格時の号給対応表などを用意する。
- 給料表で初任給(都庁の例では1級29号)にあたる給料月額を確認
- 固定的な諸手当(都庁の例では地域手当を給料月額の20%)を計算
- 給与(給料+諸手当)を計算。管理職となる場合は諸手当に管理職手当を含める。
- 給与×12で月給の1年分を計算。
- ボーナスの計算に含める職務段階別加算額を計算(主任なら給与の3%)
- ボーナスを計算(期末手当は給与×2.6ヵ月分、勤勉手当は給与×1.9ヵ月分)
- 月給1年分とボーナスを合計して年収を算出
- 昇任するまでは4号給昇給した給料表の給料で計算する。
- 以下、繰返し。
都庁の例においては、ボーナスは一般職員と管理職では計算方法が異なります。期末手当を少なめにして、勤務成績をより反映する勤勉手当を手厚くしようという趣旨ですね。ただし、今回の記事では成績率は考慮していません。単純に以下の割合で計算しています。
- 一般職 期末手当 2.6ヵ月分、勤勉手当 1.9ヵ月分
- 課長級 期末手当 2.2ヵ月分、勤勉手当 2.3ヵ月分
- 部長級 期末手当 2.0ヵ月分、勤勉手当 2.5ヵ月分
※給与メモの計算式ではボーナスの職務段階別加算額の計算に管理職手当を含めるか判断がつかず迷いましたが、含めて試算しました。
前職がある場合の初任給の計算方法
例:都庁にⅠ類Bで採用されたが経験年数が6年あるが初任給をどのように計算するか?
→1級29号に前職分を加算するために経験年数換算をします。換算は東京都が公表している初任給、昇格及び昇給等に関する規則の別表第4に基づきます。
「国家公務員等、地方公務員又は公共企業体、政府関係機関若しくは外国政府の職員としての在職期間」で「職務の種類が同種のもの」は10割換算。「民間における企業体、団体等の職員としての在職期間」で「職務の種類が同種のもの」は10割換算となっています。
例えば、前職が6年あり、他の役所や民間企業で、同種(事務系)の仕事をしていたならば1級29号+(4号給×6)=1級53号が初任給です。
ご自身の経験年数を換算して計算しましょう。
昇給・昇格時の給料月額の計算方法
昇給や昇格については、昇格時号給対応表に基づき計算していきます。
- 年次を1年経るごとに4号昇給
- 入庁6年目の1級49号が主任1年目の2級17号に対応。
- 管理職とならない場合は主任6年目の2級37号が課長代理1年目の3級29号に対応。(管理職となる場合は、主任2年目で管理職試験Aに合格する想定ですので、主任3年目の2級25号が課長代理1年目の3級17号に対応します)
実際は勤務成績が上位だと5号昇給や6号昇給もありえます。自分は必ず上位をとるという方は5号昇給で計算したり、Ⅰ類A採用なので主任には最短3年で昇任するんだという方は適宜、昇格する年を変更して試算しましょう。
諸手当の計算方法
ケース① 管理職にならない場合の諸手当
今回の試算に含めている諸手当は地域手当のみです。
実際には扶養手当、住宅手当のほか、離島の場合には特地勤務手当(地域手当に代わるもの)や単身赴任手当がついたりします。都庁における代表的な手当(月額)を紹介します。
- 扶養手当 子ども9,000円、子ども以外6,000円(妻と子1人だと15,000円)
- 住居手当 15,000円(34歳の年度末まで)
- 単身赴任手当 基礎額30,000+島ごとの加算(大島12,000円、母島46,000円)
ご自身が想定する手当を加算してみるとより実態に近い試算となります。
ケース② 管理職となる場合の諸手当
試算に含めている諸手当は地域手当と管理職手当です。なお、超過勤務手当については管理職にはつきません。超過勤務手当を考慮した試算をする場合は課長代理級までとしてください。
実際には、管理職試験合格後のローテーション期間はとても忙しいため、超過勤務手当が相当支給されると考えられます。当ブログの試算では課長への昇任で年収が約200万円も増えていますが、これは超過勤務手当を考慮していないためです。固定給ベースで管理職手当が増えたことが増加要因です。
ローテーション期間に超過勤務手当をたくさんもらっている場合(月間100時間超など)だと課長代理級でも年収が1千万円を超える場合もあり、課長昇任時に逆に総額は減るということもあり得ます。参考までに「平成30年度 東京都人事行政の運営等の状況について(平成30年10月31日)」によると、超過勤務手当の職員1人当たり平均支給年額(平成29年度決算)は344,000円です。
さいごに
以上が東京都庁を例とした地方公務員の収入の試算結果と試算の方法の紹介でした。
[box03 title=”試算のまとめ”]- 非管理職の生涯年収 約2億5千万円
- 管理職の生涯年収 約3億5千万円
- 非管理職と順調に出世する管理職は30代後半から収入に大きな差が発生
都庁の例で試算をした結果では、管理職と非管理職の生涯年収に1億円ほどの差がつくことがわかりました。結婚した夫婦が2人でとんとん拍子に出世したら2億円です!
管理職試験を受ける際の判断基準には、仕事のやりがい、ワークライフバランス、お金など色々な要素がありますが、収入面でここまで差がつくと管試を受けるモチベーションになるのではないでしょうか。参考の一つとしていただければ幸いです。
他県や市役所等の場合でも、給料表などの資料があれば基本的には同様に試算ができますので、就職する自治体、気になる自治体の資料を集め、試算することをおすすめします。
実際に試算をしてみると、給与の仕組みがわかってとても勉強になります。自治体で働いていると人事・給与関係の仕事に携わる機会も多いと思います。新規採用で給与担当になる方にとっては、入庁前に一度計算をしておくとその後の実務に活かすことができます。
公務員受験生、若手公務員の皆さまがそれぞれの職場でご活躍されることを祈っております!ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
退職金や資産形成については以下の記事をご覧ください。